賃上げで人材開発支援助成金が増える!最新の「賃金要件」を分かりやすく解説!
昨今の継続的な物価上昇を背景に、大手企業から中小企業まで賃上げが加速しています。東京商工リサーチが2023年度に実施した「賃上げに関するアンケート」調査(第2回)によると、大企業で85.5%(478社中、409社)、中小企業でも80.0%(3,653社中、2,924社)が賃上げを実施すると回答しており、IT企業(情報通信業)でも80.4%(235社中、189社)の企業が賃上げ実施予定となっています。
企業にとっては苦しい状況となる賃上げですが、実は賃上げのタイミングに合わせて人材開発支援助成金を上手に活用すると、助成金額を増額できることはご存じですか?
エンジニアの採用・育成コストの削減のために厚生労働省の「人材開発支援助成金」を活用するIT企業は多いと思いますが、2023年度からは一定の賃上げの要件を満たせば助成金額を大きく引き上げられる制度が新設されています。
過去にも労働生産性を向上させた企業/事業主に対して助成額を割り増しする制度(以下「生産性要件」)がありましたが、申請ハードルが高く、ITCOLLEGEにのお客様でも活用する企業は多くはありませんでした。
賃金要件は生産性要件と比べると申請のハードルが低くなっているため、少しでも助成額を上げたい場合にはぜひご活用いただきたい制度です。
本記事では、人材開発支援助成金の「賃金要件」の達成基準と、賃金要件が適用される助成金コースを解説。賃金要件について調べている方は、ぜひ最後までお読みください。
人材開発支援助成金についての詳細は、助成金サポートページでも解説しております。
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人材開発支援助成金の「賃金要件」とは?
助成金のコースによって助成率の違いはありますが、シンプルに言えば賃金要件とは「研修後に対象社員の給与を+5%以上増額すると助成金額が増える」という仕組みです。
従来の「生産性要件」では、会計年度ごとの勘定科目を人件費(給与手当・賞与・通勤費・法定福利費など)や減価償却費、動産・不動産賃借料など細かく算出して比較する必要がありましたが、賃金要件ではシンプルに「賃上げ前後3ヶ月間の賃金の総額」を算出・比較します。
たとえば新卒エンジニアを採用し、研修期間中(4~6月)に初任給22万円を支給していたところ、研修修了後に賃上げを行い新卒全員に対して月給23.1万円を支給した場合は、経費助成・賃金助成・OJT実施助成額が割り増しされます。
【廃止】生産性要件 | 【新設】賃金要件 | |
助成対象 | 企業の労働生産性を向上した事業主 | 社員の賃上げを行った事業主 |
割増支給の対象 | ・経費助成 ・賃金助成 ・OJT実施助成 | ・経費助成 ・賃金助成 ・OJT実施助成 |
条件 | 直近の会計年度における「生産性」と 3年度前の生産性を比較して6%、 または1%以上・6%未満(※)伸びていること ・直近の会計年度における生産性 ・3年度前の生産性 ※金融機関から一定の「事業性評価」が必要 | 毎月決まって支払われる賃金について、 研修終了日の翌日から期間して1年以内に、 すべての対象社員の賃金が5%以上増加していること ・賃金改定後3ヶ月間の賃金総額 ・改定前3ヶ月間の賃金総額 ※申請期限は、要件を満たす賃金を支払った 翌日から起算して5ヶ月以内 |
人材開発支援助成金で、賃金要件が適用される助成金コース
ITCOLLEGEをはじめITエンジニアの研修でご利用いただける助成金コースのうち、賃金要件の対象となるのは以下の3種類となっています。本記事では、それぞれの助成金コースで賃金要件を満たした場合の経費助成・賃金助成・OJT実施助成率をご紹介します。
- 【OFF-JTが対象】人材育成支援コース 人材育成訓練
- 【OFF-JT+OJTが対象】人材育成支援コース 有期実習型訓練
- 【OFF-JT+OJTが対象】人への投資促進コース 情報技術分野認定実習併用職業訓練
デジタル・DX人材の育成に対して最大1億円が支給される事業展開等リスキリング支援コースをはじめ、人への投資促進コースの中でも高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練など、あらかじめ高率助成として設定されている助成金は賃金要件の対象外のため注意が必要です。
1.人材育成支援コース 人材育成訓練
後述の「人材育成支援コース 有期実習型訓練」、「人への投資促進コース 情報技術分野認定実習併用職業訓練」はいずれもOJTの実施が必須となっていますが、この人材育成支援コース 人材育成訓練はOFF-JT研修(外部研修など)を10時間以上行えば活用できます。
人への投資促進コースや事業展開等リスキリング支援コースなど高率助成の助成金と比べると支給限度額は低いですが、その分必要な申請書類や手続きもシンプルなため、ITCOLLEGEのお客様から最も人気のあるコースです。
特にメリットが大きいのは、契約社員を研修後に正社員に転換し、さらに賃金要件を達成した場合です。
契約社員を正社員に転換した場合は、賃金要件を達成していなくても経費助成として研修料金の70%が支給されますが、賃金要件を達成すると、経費助成が研修料金の100%に引き上げられます。賃金助成も1時間あたり760円から960円へと引き上げられるので、研修自体の費用だけでなく研修期間中の人件費も大部分が補填できますね。
賃金要件を満たした場合の助成率
対象社員 | 経費助成 | 賃金助成 |
正社員雇用の場合 | 60%(45%) | 960円(480円) |
契約社員雇用の場合 | 75% | 960円(480円) |
契約社員を正社員に転換した場合 | 100% | 960円(480円) |
2.人材育成支援コース 有期実習型訓練
有期実習型訓練は正社員経験が少ない契約社員(有期契約労働者等)を対象に、OFF-JTとOJTを組み合わせた研修を実施した際に支給される助成金です。
契約社員から正社員への雇用転換を目的としているため、対象者が契約社員(有期契約労働者等)の場合にのみご活用いただけます。
こちらも賃金要件を達成すると人材育成訓練と同様に経費助成・賃金助成が引き上げられますが、OJT実施助成も通常時の10万円から13万円(大企業では12万円)に増額されるのがポイント。正社員経験が少ない契約社員をOJTで時間をかけて育成したい場合にもコストを削減できます。
賃金要件を満たした場合の助成率
対象社員 | 経費助成 | 賃金助成 | OJT実施助成 |
契約社員雇用の場合 | 75% | 960円(480円) | 13万円(12万円) |
契約社員を正社員に転換した場合 | 100% | 960円(480円) | 13万円(12万円) |
3.人への投資促進コース 情報技術分野認定実習併用職業訓練
人への投資促進コースには情報技術分野認定自習併用職業訓練は、IT未経験者の即戦力化のためにOFF-JTとOJTを組み合わせた研修を実施した場合に助成されるコースです。研修の対象者は正社員・契約社員どちらでもご活用いただけます。
情報技術分野認定実習併用職業訓練のメリットは、前述の「人材育成支援コース 有期実習型訓練」と比べてOJT実施助成が高いこと。賃金要件を達成すると、中小企業では1名あたり25万円、大企業でも1名あたり14万円のOJT実施助成が支給されます。
有期実習型訓練との違いは、通常研修開始の2ヶ月前までに厚生労働大臣からの認定を受ける必要があること。研修の対象者が新卒エンジニアなど新規雇用者の場合は研修開始の前日まで計画申請できます(※)が、このコースでは大臣認定の追加書類を作成する必要があるので注意が必要です。
※既存社員の場合は研修開始1ヶ月前となります。
賃金要件を満たした場合の助成率
研修の対象社員 | 経費助成 | 賃金助成 | OJT実施助成 |
正社員/契約社員 | 75%(60%) | 960円(480円) | 25万円(14万円) |
賃金要件の申請タイミングと提出書類
通常、人材開発支援助成金は研修の終了日から起算して2ヶ月以内に支給申請を行うことになっていますが、支給申請を行った後に追加で賃金要件による引き上げを希望する場合は、すべての対象社員に対して、要件を満たす賃金を3ヶ月間継続して支払った日の翌日から起算して5ヶ月以内に追加で以下の書類を提出します。
通常の支給申請を行った後に書類を提出しますが、その際に通常分の助成を受けた時の「支給決定通知書」の写しなどが必要です。それでも計画申請や支給申請と比べれば対象社員の賃金に関する書類だけを提出すれば良いので、手続きの準備はそこまで必要ありません。
支給申請時に提出した様式
1 | 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号) |
2 | 支給申請書 |
3 | 賃金助成・OJT実施助成の内訳 |
4 | 経費助成の内訳 |
賃金要件による引き上げを希望する場合に追加で提出する書類
1 | 賃金要件等確認シート |
2 | 割増助成の元となった訓練で、通常分の助成を受けた時の「支給決定通知書」の写し |
3 | 賃金増額改定前後の雇用契約書 |
4 | 賃金増額改定前後3ヶ月間の賃金台帳など |
賃金要件の注意点
賃金要件は従来の生産性要件と比べると申請ハードルは低いですが、いくつか注意点があります。ここでは代表的なものをピックアップしてご紹介しますが、ほかにも細かな条件がありますので事前に社労士などコンサルタントに確認することをおすすめします。
- 賃上げは対象社員の賃金合計ではなく、対象社員全員の給与を賃金改定前後でそれぞれ5%以上増額する必要があります
- 毎月変動する手当や業務との関係が薄い手当は賃上げの対象外になることがあります
- 賃金の増額後、合理的な理由なく賃金を引き下げる場合は、賃金を増額したものと認められません
- 合理的な理由なく、賃金以外の諸手当等の額を引き下げることで、賃金の額を引き上げる場合は賃上げとして認められません
- 研修後の正社員雇用への転換を確約した場合は、契約社員区分で助成金を申請できません
自社に合った助成金を選べば、研修コストを大幅に削減できる
最後までお読みいただきいただき、誠にありがとうございます。
賃金要件の仕組みを活用すると助成金額を大幅に引き上げることができますが、社員の採用・育成にコストが掛かっている中で、さらに賃上げも行うとなると企業にとっては負担になってしまうこともありますよね。
自社に合った助成金コースを選べば、賃金要件の仕組みを使わなくても、研修料金の大部分を補填できる場合もあります。前述の「人材育成支援コース 人材育成訓練」を活用する場合も、中小企業のお客様なら賃金要件を達成しなくてもITCOLLEGEの研修料金の90%以上を助成金で補えますよ。
ITCOLLEGEでは研修にお申し込みいただいたお客様の助成金活用を無料でサポートしています。お客様の採用・育成プランや研修目的に合わせて最もメリットのある助成金コースをご提案させていただきますので、来年の新卒エンジニア研修に向けて、まずは助成金プランをシミュレーションしてみませんか?
助成金選びでお悩みのお客様は、ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省『人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内』
- 厚生労働省『人材開発支援助成金 人への投資促進コースのご案内(詳細版)』
- 厚生労働省『令和5年度より「生産性要件」は廃止され「賃金要件」及び「資格等手当要件」を新設します』
- 厚生労働省『労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます』
- 厚生労働省『令和5年度版 人材開発支援助成金事業主様向けQ&A(賃金要件・資格等手当要件について)』